Travel Notes 21
旅の敏腕プロデューサー?

フィンランドの玄関ヘルシンキヴァンターエアポート

 昨夜は疲れていたせいか朝までぐっすりよく眠れた。
朝起きてシャワーを浴びると食堂に朝食をとりに行く。

 食堂に来て驚いた!!朝っぱらから、くろ、クロ、黒、健全なはずの
サマーホステルの食堂がX-JAPANのファンの様な黒づくめの集団に
占拠されてるではないか。

 昨日から、やけに町中この格好をした集団を見かけたが皆同じ
T-シャツを揃って着てるところを見ると、どうやら何かのイベントが
あったらしい。

 背中の文字を読んでみると何やら血のなんとかとか書いてある。


 なんだキミら、悪魔でも崇拝してるのか?

ヘルシンキなんかに来ないで原宿にでも行け。

 服は黒いが肌の色はもやしっ子な集団に混ざって料理を取る。
相変わらず、お粥にベリージャムとバターのなんとも解せん組み合わせ。


 食事を済ませチェックアウトすると時刻は10時過ぎ、空港バスの
出発時刻まで走らなきゃ間に合わない時間だった、その後のバスは一時間後。
 メンドクサイし、二人いるからタクシーに乗ることにしよう。
ヨーロッパでは流しのタクシーはほとんど見かけないのでいいか悪いか
わかんないけど近くの立派なホテルに紛れ込み、客の振りして客待ち
してるベンツのホテルタクシーを捕まえた。


 空港までの約30分、郊外の白樺の並木に囲まれたとても気持ちの
いい道を走る。
 首都だというのに少し郊外にでればとても気持ちのいい自然がある。
ハッキリ言って北海道なんかの比ではない。
 
 こっちに来て思ったのだけれど、ヨーロッパは町と町の間、国と国の間は
そんなには離れていないし、ちょっと郊外に出れば自然溢れるのどかな道が
延々続いている、それでいて、国によってまるっきり文化や雰囲気が違うのだ。

 この環境最高のツーリングスポットではないだろうか?
 ヨーロッパ各国をバイクで旅して周ったら最高なんじゃない?

 ハーレーやBMでヨーロッパ中を周ってるらしきオジサンたちをよく見かけた
けどとてもうらやましかった。

 あぁ・・・オレの愛しのハーレーいまいずこ・・・。
 (新潟にドナドナされていきましたやん・・・。)


 ヘルシンキヴァンター空港に着くとチェックインカウンターの列に並ぶ。
僕らのチケットはルフトハンザドイツ航空のモノなので帰りはドイツ経由で成田
というルートを取る。

 本来、ヘルシンキから成田まで直行便なら9時間程度で着けるのだが、
僕らの安チケットはわざわざドイツを経由するため15時間もかかってしまう。
 格安チケットなのでこの辺は致し方ないがなんともおかしな話だ。


 ここでコソレン観光ツアーズ、敏腕プロデューサーぶりを発揮する。
行きは成田→フランクフルトの便を利用したが帰りはミュンヘン→成田で帰る
のだ、なんでこんなことをするかというとフランクフルト⇔成田の便は便数も多く
乗降客数も多いため、機材が大型のボーイング747、対してミュンヘン⇔成田間
は、本数も一日一本と少なく、空港自体も利用客数がそれほどでもないので、
機材は、ボーイング747よりひとまわり小さいエアバスA340なのだ。

 この機材が違うことで何が違うんだ?オイ、ボケおっさん、と思ったそこの
不届きな輩にはテポドンの雨が降るであろう。

 ひとまわり小さいA340の何がいいのかというと、座席配列がB747の
窓から3-4-3の配列に対してA340は2−4−2、つまり、2人で乗って窓際
を占拠すれば、長いフライトの間となりに気兼ねせずにのんびり過ごせるって
わけ。

 どう?この敏腕プロデュースぶり、え?座席が窓際かどうかわかんないじゃん
って?そう、通常、飛行機の座席は先着順で先にチェックインした人の中から
希望がある人を優先して決まっていく。

 つまり早く空港に行って窓際が取れなかったら元も子もないと言うわけ。

 しかし、そこからがまた、コソレンツアーズがよそと違うのだ。
敏腕プロデューサーオレは、あらかじめルフトハンザのHPから使用される
機材をチェックして、その座席表を入手、事前に、座席番号まで指定して
2週間前にルフトハンザで確保しておいたのだ。

 フランクフルトとミュンヘンならば飛行時間もたいして変わらない。
だったらすいてるところに限るね。

 ど〜よ、この敏腕ぶり、これくらい完璧に仕事もやればいいのだが、
ど〜もそっちのほうはサッパリで・・・。

  後で、この少ない本数が裏目に出てえらい目に遭うこととなる。

 チェックインカウンターの列に並んでいるとルフトハンザの兄ちゃん職員に
声をかけられた
 なんだコンニャロー?と思ったらこっちの自動チェックイン機を使ったら
並ばなくていいよと言う親切なお誘い。
 いや、英語わかんないから自動チェックインはちょっと・・・。

 そう思ったけど、彼がやってくれるそうなのでチャレンジしてみる。。
僕のチケットを機械に通すと何やらアラートが出る。
 ん?なんだ?オレのチケットになんか問題でも?
そのアラートによると、どうやら僕らの乗る予定のミュンヘン行きの到着が
15分ほど遅れてるらしい。


 コレはちょっと困ったことになったぞ・・・。


ニッタ青くなる

ミュンヘン空港にて。

 僕らの帰国ルートはこうだ。

      LH3111便: ヘルシンキ 13:15 ミュンヘン 14:55
      LH0714便: ミュンヘン 15:30 成田 10:00

 ミュンヘンで成田行きの便に乗り換えるのだがドイツが最後の
EU加盟国となるため最終出発地ミュンヘンでEUの出国手続きを取る事になる。

 しかし、ミュンヘンでの乗り換え時間はわずかに35分、つまりこの35分間
で出国手続きから飛行機のトランジットまでをすべて行わなければならないのだ。
ハッキリ言って時間的にはギリギリだ。

 そこに来てこの飛行機の遅れ・・・現時点で15分遅れなので貴重なトランジット
タイムは残り20分にまで削られた。

 20分の間に出国手続きとトランジットを行わなければならない。
EUの出国手続きを受けるのが僕らだけならタブン問題ない時間なのだが
これまでの経験からすると出国手続きに並ばないわけがナイ。

 ミュンヘン⇒成田便にここヘルシンキから乗る人間が何人いるか
わからないが、見たところ日本人らしき人物は見当たらない、おそらく
僕ら二人だけだろう・・・。

 いくら航空会社の責任で遅れたとはいえ、たった二人のために飛行機の
出発を遅らせるとは考えにくい。
 よくて、ホテルの提供、翌日の便への割り込み、格安航空券だしダメなら
そのまま知らんぷりってことも最悪有り得る。。


 まぁ天下のルフトハンザだから何も保障しないとは考えにくいが
(もしそうなら猛抗議だな)一日一便のミュンヘン⇒成田便、今日の
便に乗れなかったら確実に帰国が一日遅れる。

 本数が少ないマイナーなとこを攻めたのが仇となった。


 僕的には一日延びるとミュンヘンも楽しめてラッキー♪
夜はビールにウィンナー♪なんて想像してウッキウキ、上手くいけばお詫び
のしるしにビジネスクラスで帰国、なんてのもあるかもしれない、うひょ♪

 と思って、逆にちょっと楽しくなってきたのだがニッタを見ると・・・。

 ウチの会社と同業他社に勤めるニッタさん。
スパルタで有名なその会社、体調不良以外の有給取得は年で2日
しか認められていない。


 その貴重な2日を3連休にくっつけ前後2日間を移動で費やしつつも
たった5日間でヨーロッパに来ようという超強行軍を実施したニッタ、もはや
有給などあろうはずがない・・・。

 この危機的状況にニッタは・・・


     オロオロ...(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル ((((


 おい、ニッタ、お前顔色悪いぞ、大丈夫か?寝るな、寝たら死ぬぞ!!


 自動チェックインを済ませるとルフトハンザの兄ちゃんが荷物を預けろという。

 去年一度ロストバゲッジした苦い経験があるので乗り継ぎ便は要注意だ。
何が何でも荷物は機内に持ち込みたい。
 去年、僕が成田に着いたとき、荷物はまだフィンランド旅行を楽しんでたのだ。

 ど〜しても機内に持ち込みたい旨を告げるがダメだという。
何故だ?行きもずっと持込で来たんだから問題ないだろ!!
 持ち込ませろ!!と言うが断固としてダメだと言う。んもぉ〜頑固なヤツだ!!
 なんで?なんでダメなの?理由はわからないが断固拒否する彼に根負けして、
しゃ〜ない、もう帰国だし万が一荷物が遅れてまぁもいっか・・・。
そう思ってしぶしぶザックを預けることにした。

 ザックを預け金属探知機を抜けると免税店に向かう。
ヘルシンキの空港の免税店はストックマンデパートが出店してて
品揃えが豊富だ。

 フィンランドのガラスメーカーlittala(イッタラ)やキャビアにサーモン
果てはトナカイやクマの肉まで売っている。

 今まで何一つお土産を買ってなかった僕は会社と家にお土産を、残った
ユーロを使い切る、トナカイのジャーキーなんてのも買ってみた。

 この免税店での買い物の時ばかりはさすがのニッタも終始ご機嫌♪


その後、運航掲示板のLH3111便さらに15分遅れの文字をみて再び真っ青・・・。


あぁ・・荷物が・・

めずらしい?駆け込み出国審査

 出発時刻は過ぎていた。
搭乗ゲートの案内モニターにはLH3111便30分遅れの文字。

 搭乗を待つ乗客たちは全部で40人ほど、東洋人は見当たらない。
イタリア人家族の子供が陽気に遊びまわる中、ニッタは一人青い顔。


 ねぇねぇ・・・間に合うかな〜?アタシ間に合わなかったらどうしよう・・・。


 さぁ〜ど〜やろね〜厳しいんじゃね〜の〜?5分間で乗換えなんてさぁ〜
成田に行く人はヘルシンキ便の中でオレらだけかも知れないしわざわざ飛行機
が待ってくれるとも思えんしな〜、出国審査もあるし絶望的やろ。
 もう辞めちゃえよ、そんな、会社、そこのファックス借りて辞表送りつけたれ。

 わざと大げさに言ってイジワルしてみるがかなり厳しいのは事実だ。

 結局、30分遅れで搭乗手続きが始まり、乗客はバスで飛行機へ向かう。

 飛行機を見て、ちょっと驚いた、なんだこりゃ?マイケルジャクソンの
プライベートジェットか?なんて感じの飛行機が僕らを待っていた。
 (カナデアジェット CRJ700という飛行機らしい。)


 機体のドアも兼ねたタラップをあがって機内に入る。2席-2席の狭い機内。
真ん中の通路しか立ってあるけないような、この小さな機体、これじゃザックを
機内に持ち込めないわけだ・・・、それならそうと言えよ、あのフィンランド人。
 小さな飛行機でもやっぱ席はレザーシート、さすがルフトハンザ、リッチー♪

 となりのイタリア人女性二人が、写真を撮ってくれと話しかけて来た。
撮ってあげると僕らのぶんも撮ってくれた、陽気なイタリア人女性の笑顔に
比べて引きつったニッタの笑顔・・・。


 車椅子のおばあちゃんを乗せるためにさらに10分の遅れ。
 これで計40分の遅れ通常通りの飛行をすれば完全に成田行きはアウトだな。


 小さくて新しいカナデアジェットが離陸すると眼下にフィンランドの森が広がった。
 ミュンヘンまで約2時間半のフライト、機が水平飛行に移るとキャビンアテンダン
トがドリンクと軽食を運んできた。

 もちろん僕が頼むのはビール、当然ニッタも・・・ってアレ?ビール飲まないの?

  ニッタ「う・・うん・・・今はいいや・・・。」

 ど〜した?三度の飯よりビール好きのニッタさんがビール飲みたくないなんて、
カラダの具合でも悪いのか?それともシリヤラインのオレみたいにトイレが近く
なるのが怖いのか?

   間に合うかどうか、心配しすぎてビールものどを通らないご様子。

 まぁまぁ、心配してもしょうがないじゃん、ビールでも飲んでさ。
真っ青なニッタを横目に無責任にビールを楽しむ、友情なんて所詮そんなもんさ。
 さて、いったいどうなることやら、あとはこの飛行機がどれだけ遅れを取り戻せるかだな。

 そんなことを考えながらひと眠り、ニッタさんは心配で眠れなかったご様子。


 着陸態勢に入ったとき、目が覚めた。
時計を見るとたったの5分しか遅れを取り戻していない・・・やる気あんのか?
 どうなるんだろ・・・そう思って外を見ていると機内放送が流れた。

 英語なので何を言ってるのか詳しくはわからなかったが、この機に接続する
便のなかで接続時間に余裕がないのはどうやら成田便だけではないらしい。
ニューヨーク便とナポリ便、そしてパリ便もどうやらギリギリのご様子。


 『TOKYO、NEWYORK、NAPOLI、PARIS行きの便にご搭乗予定のお客様は
  お降りの際、お近くの客室乗務員、または地上係員にお声をお掛け下さい。』


 よくわからなかったが、たぶんこんな内容の放送がながれた。


おい、ニッタ、ひょっとすると間に合うかもしれないぞ。


 僕らの乗ったLH3111便がミュンヘンに到着すると、あちこちから
ワゴン車が一斉に飛行機に向かって走り寄ってきた、飛行機が止まると
その周りを一斉に車が囲む。
 まるでハイジャックされた飛行機を警察車両が囲む、そんな何かの映画の
ワンシーンのようであった。

                一体なんだ?

 飛行機が止まった時点で時刻は15時25分、成田便出発の5分前。
飛行機をおりて、地上に降り立つと”TOKYO”と書かれたプラカードを持った
ウィッキーさんソックリの顔をした男が物凄い形相で立っていた。

 彼に東京行きであることを告げると、ワゴンに乗れと言う。
しかし、僕らのザックはまだ飛行機の中だ。

 ウィッキーに荷物がまだ飛行機の中なんだけど・・・と伝えるが通じてない様子、こんなとこでロストバゲッジされたらたまらん、必死で荷物がまだ飛行機に!!
と訴えるが荷物なんかいいからおまえら早くワゴンに乗れとすごい形相!!

 しぶしぶワゴンに乗り込む、あぁ・・・さよなら僕のザック。

 気がつかなかったがLH3111便には僕らのほかに2人日本人が乗っていた
ようだ。ビジネスマンらしきおじさんが二人。
 そのおじさんたちも荷物が飛行機の中に・・・とウィッキーに訴えるが必死な
ウィッキーの物凄い迫力に圧倒され同じようにスゴスゴとワゴン車に乗り込む・・。


 ふと飛行機のほうに目をやると、地上係員がの〜んびりと荷物を貨物室から
降ろしている、積み上げられた荷物の中から僕らのザックを探そうとするが、
見つけることは出来なかった。

 仕方がない、もう帰国だし、荷物が遅れても替えのパンツがないわけではない。
むしろ重いザックを背負って帰らなくていいからラッキーだと思うか・・・。

 僕ら日本人4人を乗せて、ウィッキーの運転するワゴン車は714便に向けて
走り出した。


714便へ走れ
 ミュンヘンからヘルシンキヴァンター空港の真上を通過しロシア上空を抜け成田へ・・・。

 ウィッキーの運転はすさまじかった。

僕らを乗せた白いワゴン車は時速100キロものスピードで空港内を駆け抜け
東京行きLH714便に向かって突っ走る。

 ひっくり返るんじゃないかと思うような勢いでコーナーを直角に抜け、そこから
さらにスピードをあげて突っ走る、途中、コンテナを運ぶトーイングカーと衝突
しそうになるが、すんでのところでかわして難を逃れる。

ウィッキーは舌打ちをして後ろを振り返るがどう考えてもウィッキー、
おまえが悪いぞ。


 LH714便出発時刻まであと2分、このまま出国審査も通らずに飛行機に
乗り込むのだろうか?

 これは面白いことになったぞ、入国スタンプはあるけど出国スタンプがない。
話のネタに持って来いだ・・・。

 そう思って不謹慎にもウキウキしてたら途中で建物によってちゃ〜んと
出国手続きを行った。
 こんな辺鄙なところにも手続きカウンターがあるところをみると結構よくある
ことなんだな。


 焦るウィッキーをよそ目に審査官はのんびりスタンプを押す。
再びワゴンに乗り込むと成田行きLH714便の前まで走った。
 東京行きのエアバスA340に架けられたボーディングブリッジを
駆け上がり機内へと急ぐ。

 ウィッキーは無事自分の仕事を全うして燃え尽きたのかその顔には
さっきまでとは違った安堵の表情が浮かびボーディングブリッジの操作員
とガッチリ握手をして帰っていった。
 コレだけ車で飛ばしてきたんだ、僕らのザックは積まれてないだろうな・・・。

 東京行ルフトハンザドイツ航空LH714便は5分遅れの僕ら二人を
待っていてくれた。
 すでに乗客は全員着席しており僕らが乗り込むとすぐに動き出した。


 離陸して、水平飛行に移るとニッタさんも笑顔を取り戻し、まずはビールで
乾杯の声をあげる。


 定刻より10分ほど遅れて離陸したLH714便は、2時間半後、なんと
さっき来たヘルシンキヴァンターエアポートの真上を通過した。

 窓の外に見える、ヘルシンキヴァンター空港を眺めながら、一体、
この6時間あまりの時間は何だったんだろう・・・ふとそんなことを考えてみた。


 そんなことはお構いなしに、僕らを乗せた714便は極東の小さな島国、
僕らの祖国ニッポンへ向けて順調に飛行を続けていった。






          
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