Euro 2004 Special
EURO2004 番外編 はじめてのお使い



自分の飛行機を撮らずに何故かとなりの飛行機を。

 携帯が普及してからというもの待ち合わせの方法・約束がテキトーになった。

 とりあえずどこどこに仕事が終わったら行くねとか駅についたら
電話してとか時間も場所も曖昧になりがち。
それは携帯でいつでも連絡が取れるという安心感からでしょう。

しかし、今回の待ち合わせはそうはいかないのだ。
携帯電話が使えないのはもちろん、その他有効な連絡ツールは皆無
と言っていい。

だって、日本じゃないんだもの。

今回の約束は18:00にスウェーデンのストックホルム・アーランダ国際空港
のカフェの前で。
久しぶりにきっちりとした待ち合わせの約束だ。
海外旅行初心者、よちよち歩きのこんな私がスウェーデンまで一人で
向かわなくてはならない。

ニッタちゃんはじめてのおつかい。

今回のミッションはストックホルムで豪華客船の乗船チケットを手渡しする
ことだ(あえていうならば)。


 私の勤務先では任意の有給が年に2日しか取れない。
その貴重な休みを使って北欧に行くことに決めた(てか、そそのかされた)。
3泊5日の強行北欧旅行だ。
 今回の旅の友はそんな強行スケジュールに付き合ってくれるわけもなく、
先にヨーロッパに旅立つという。
海外旅行はパック旅行で過去に2回しか行ったことがないという足下の
おぼつかない生まれたての子牛を置いて。


 初めての個人旅行、添乗員はもちろんいない。ハンディカメラを持ったADが
つけてくることもない。
 しかも、フランクフルトで乗り継ぎがあるにもかかわらず、乗り継ぎの経験は
一度もない。
 英語はほとんど話せない。いや、ほとんどというか全く。
なにもかも、ないないばかりで、なんにもない。そら恐ろしいことになったもんだ。


 出発前日の壮行会。
海外一人旅を何回か経験している友人は余裕だ。
「君が空港についておれが来てなかったどーするよ?」
面白がって聞いてきやがる。
「途方に暮れる」
そうとしか言いようがありません。


 友人に遅れること6日。いよいよ私もスウェーデンに向けて出発。
前日荷物を詰め込んだバックパック。非常に重たい・・・。
歩こうとすると、寝起きであることもあってふらふらしてまっすぐ歩けない。
ランドセルに背負われちゃってる小学校に入学したてピッカピカの一年生のよう。
う〜ん。こんな荷物で北欧までたどり着けるのかしら。一抹の不安がよぎる。
でも荷物を減らすのもしゃくなので、そのまま成田に向かうことにした。
はじめてのおつかい、いよいよしゅっぱ〜つ♪


 成田空港行きの電車内は大きな荷物やスーツケースを持った人が数組いた。
そう、数組。グループばかりが目に付く。いいな〜一緒に行く友達がいて。
寂しい私は何度もじっとグループ観光客を見てしまう。
目つきがあんまりよくないので、きっとガンとばしているみたいに見えたことで
しょう。
不安な気持ちで成田に向かう自分。その行動はやや挙動不審気味だった
ことは否めない。


 成田に着き、まずは緊張の面もちでチェックインカウンターに向かう。
国内線を含め、搭乗手続きさえも一人で行うのは今回が初めて。
事前に窓際の席を予約してくれており、予定通りに窓際の席を確保できた
ことに安心感を覚えた。

 さて、次は両替だわ。空いている到着ロビーで両替せよという言いつけ通り、
到着ロビーの両替所でスウェーデンクローナとユーロをらくらくと手に入れる
ことが出来た。


 まだまだ時間に余裕があったが、特にすることもないので早々と
出国手続きをすることに。
連休前とあって、なかなか混んでいる。
 列の最後尾にならんで順番が来るのをしばらく待っていると、
「出国カード」という文字が目に入る。

 あ、そっか。パック旅行では旅行会社がいつも出国カードを用意してくれて
いたけど、今回は自分で用意しなくちゃならないんだ。
 せっかくならんだ列をはずれるのはもったいないが仕方ない。
出国カードが設置されているテーブルに向かう。

 いざ書こうとしたところで、その紙には外国人用と書かれていることに気づく。
よく見るとこのテーブルには外国人用しか置かれていない。
別のテーブルに移っても、そこにも外国人用オンリーだ。

 なぜ??どうして??
日本人用はどこにあるの??
みんなどうやって出国すんの?

 キョロキョロしていると次に目に入った看板にはデカデカと
「平成14年度から日本人は出国カードが不要になりました」
と書かれているではありませんか。

 最後に海外に行ったのは4年前のハワイです。
知りませんでした。誰かに聞いたりしなくてよかった・・・。
何事もなかったかのように平静を装い、再度列の最後尾にならび直す。


 そして、私のパスポートに3つ目の出国スタンプが押された。
いよいよか!と思ったら更に緊張してきてしまった。緊張のせいか
いつもは赤ちゃん並に手があたたかい私の手が冷たくひんやりとしている。

 一人でスウェーデンに向かうことは親にも話しておらず、幼なじみと
たまたまもう1人の友人にしか話してなかった。
母親は超心配性なものですから、一人で行くことは言おうかどうか迷ったものの、
結局話せませんでした(って私はもういい大人なんだけど)。


 搭乗間際その2人の友人から励ましのメールが届く。
初めての一人旅(?)頑張って行って来るよ!と返信し、飛行機に乗り込んだ。


 自分の席を探し、席に着いてひとまずはほっと一息。
お隣さんは老紳士。どうやらツアーでヨーロッパに向かうらしかった。
友人達とは席が離ればなれになってしまったようで、ちょっぴり不服そう。


 離陸の瞬間、いつもだったらわくわくするものですが、今回はその瞬間に
腹をくくったという感じ。まな板の上の鯉。煮るやり焼くなり好きにしてちょーだい。




もうどうにでもしてぇ〜♪

 最初の機内食が運ばれてくる。飛行機の中ではビールをたらふく飲んでやろう
と思っていたけど、緊張感で変な酔い方をしそうだったので、アルコールは控えた。

食事を終え、今回の重要ポイントである乗り継ぎをするフランクフルト空港の
見取り図を広げて乗り継ぎ方法をチェックする。が、しかしここでミステイクに
気がつく。
次の飛行機の搭乗券には搭乗口はBエリアと書かれている。
私がルフトハンザのHPからわざわざ印刷して持ってきたマップはAエリア。
な〜んでだよ〜!ルフトハンザのHPの『これで安心!乗り継ぎ情報』ページを穴
があくほどチェックし、その上でAエリアのマップをわざわざ印刷してきたのに!!
未だによくわかんないけど、きっと私の勘違いが100%なんだろうな・・・。

 一人で焦ってあわあわあわあわしていると、
「どちらに行かれるんですか?」とお隣さんの老紳士に声をかけられた。
「ストックホルムに行くんです」と答える。
「お一人?」
「ええ、実は向こうで先に旅立った友人と落ち合う予定なんです。
休みのスケジュールがあわなくて、私一人で向かうことになって、
英語なんてほとんどしゃべれないし、海外旅行なんてほとんどしたことないし・・・」 云々、不安からか酒も入っていないのに一人饒舌になる私。
もはやこの見知らぬ老紳士に愚痴ってしまっている。おじーちゃん、
きっと迷惑だったよね。ごめん。

 こちらの老紳士はスイスに向かうという。今回で3回目なんだって。
過去2回とも天気に見放されており、今回も予報では雨だとのこと。
3度目の正直できっと晴れますよとなんのひねりもないありきたりの
励まし方をしてしまった。

 しばらく二人で話をしたあと、「地球の歩き方」でスウェーデンとフィンランドの
観光名所、ホテルの場所、使えるスウェーデン語、フィンランド語をチェックする。
 これから向かう国は英語が使えれば不自由しないが、やはり、「こんにちは」と
「ありがとう」はその国の言葉を使いたい。あ、でも結局一度たりとも使わなかったんだけどね・・・・。
気になるページに付箋をペタリペタリと貼っていく。
後に「おばさん仕様にカスタマイズされた地球の歩き方」と笑われることになる。特別限定 Nitta Edition。
いーじゃんね、目的のページがすぐに開けるってすばらしいじゃんか。


 本を読んでいるとだんだん眠くなって来たので、一休みすることにした。
フライト中は、少し寝ては飲んで食べてを繰り返し、だんだんと時間が過ぎて
いった。
 長距離移動の飛行機って逃げられない機内の中でさんざん食べ物やら
飲み物やらを持ってこられるので、なんとなく飼われているような気分に
なるのだが、私だけだろうか。

最後の機内食が運ばれて来たところで、ビールを注文することにした。
やっぱただでいくらでも飲めるんだから、飲まずに降りるわけにはいかないわ。
これから初めて体験する乗り継ぎの緊張感をやわらげる目的もある。
飲めば勢いつくかなーと思ってね。

 食後、ほえ〜っとまどろんでいると、ベルト着用のサインが点灯した。
いよいよだ!!お隣さんの老紳士と一緒に仲良く時計の針をドイツ時間に
合わせる。
 なんか、ずっと緊張気味だったせいか12時間のフライトもそんなに長く感じな
かったな。
途中で、乗り継ぎの不安からなんならフランクフルトに着かなくてもいいや
とか思ってたし(ヤケっぱち)。
 むくみ防止のために履いたメディキュット(むくみ防止用の靴下)の効果か
よくわからないけど、いつもだったらぱんぱんにむくんできつく感じる靴も割と
そんなり履くことが出来た。

 窓の外に目をやると、眼下には郊外ののどかな風景が広がっている。
オレンジ色の屋根の家がいくつも連なっていて、木の緑とオレンジのコントラスト
が愛らしい。

 そしてついにフランクフルト空港に降り立つ。
お隣さんとは「スイス晴れだといいですね!」、「良い旅を!」と声を掛け合い別れた。

ニッポンジンの案内係がいるとあらかじめ聞いていたので、それらしき人を探す。
案内係のバッジをつけたおばちゃんを見つける。
乗り継ぎ便の搭乗口に変更がないか、どうやって行けばいいのかを確認した。
おばちゃん:「・・・・左に行くとパスポートコントロールがあるのでそこを通って・・・」

 私:「え?!パスポートコントロールを通るんですか?」

慌てる私の心情を察してか、おばちゃんにまあまあなにも聞かれませんから、
出国スタンプを押すだけですからとなだめられ安心する。
入国審査では渡航の目的は?と聞かれたら、「サイトシーイング」と答えるって
ことしか頭に入れていない。
入国審査=サイトシーングと言う という簡単な図式。
それ以外の質問がきたら、はっきりいってどう答えたらよいかわからないのだ。慌てる理由はそこにある。アハ

それから、もう一つ聞きたいことがあったので尋ねることにした。
私:「あの・・変なことをお尋ねしますが、1マルクって日本円でいくらになるんですか?」
乗り継ぎ時間に余裕があったので、空港内で買い物をするかもしれないと思った
のだが、あらかじめ確認しておかなかったので、ここで聞いておきたかったのだ。
 おばちゃん「えーとそうですね・・・んー100円・・・100円ちょっとだと思います。確か。」

ん?
何か変だ?なんでそんなに考えた上に曖昧なの?
あ〜そうか〜もうドイツ在住のニッポンジンは日本円でなんて計算することは
ないのね。
と一人勝手に理由をつけて納得することにした。
その1ヶ月後のある日新聞を読んでいてこの質問がばかげていたことに
気がつく。
 そら、おばちゃんも答えにくいはずさ。
ドイツの通貨、今はユーロになっているんだもの。
1ヶ月も経過してから恥ずかしい思いをするとは思わなんだ。。。


 パスポートコントロールではどの窓口にも長い列が出来ている。
修学旅行中ではないかと思われる制服姿の日本人高校生の団体もいる。
ドキドキしながら待っていると、私の二人前にいるお金持ちそうなアフリカ系黒人
がなにやらもめている。なかなか話がまとまらない様子だ。
そのうち係員は電話をかけ、アフリカ系黒人にそこで待つようにと指示をした。
言葉がまったくわからないのと、こういう場面でもめたりひっかかったりする要因
も旅行慣れしていない私には一切わからなかった。
そのうちに私の順番が回ってきてパスポートを渡すと、さっきまで怒っていた係員
にガツンと不機嫌そうに出国スタンプを押され、さらに不機嫌そうに突っ返された。
初めてのヨーロッパで押される入国スタンプ、もう少しウェルカムという気持ちを
こめて笑顔で押してほしかったな・・・。普通でもそこまでしないか。
でも質問なんもされなくてほっと安心。


 搭乗口の位置を確認した後、少しだけ空港探検。重たい荷物を背負いながら
フラリフラリと徘徊する。
日本人夫婦に「フランクフルトの中心街にでるにはどうしたらよいんですか?」と聞かれた。そんなことこんな私が知るわけもない。申し訳ないですが、私ではわかりませんと伝える。


 出発時間までにまだかなりの時間があったが、心配性なもので早々と搭乗口
すぐ脇のソファーにどっかりと座り、搭乗時間をひたすら待つことにする。
しばらくすると搭乗を促すアナウンスが流れ(おそらく)、周りの人たちが搭乗口に向かったので、私も真似して搭乗口に向かう。さらにバスに乗り飛行機のある場所へ。



ハート型の湖発見!!

ストックホルム行きの飛行機はこじんまりとしていたが、シートは豪華な革製だ。
私は今回も3人席の窓際、隣は空き席となっているため快適だ。
機内食を食べたばかりなのに、ここでもベーグルを出される。食べられんわ。
飛行機ではあまり眠れず、ストックホルムに着いてからは少し観光をと考えていたので、眠気覚ましにコーヒーを飲む。
2時間ばかりのフライトを時々窓の景色を見ながら楽しむ。空港に近づいたところで、森の中にいくつも湖が点在しているのが見えた。さすが森と湖の国と思ったが、フィンランドはまだだった。ここはスウェーデン。

そして今回のおつかいの目的地ストックホルムに降り立った。
前に座っていたおばあちゃんが客室乗務員に手伝ってもらいながらも、席をたつまでに時間がかかっていたので、それを気長に待っていたところ、気がつくと最後の客になっていた。

飛行機を降りた後は、どこにどう行っていいのかがわからなかった。
とりあえずトイレに行ってみたが、長蛇の列だったため、用を足すのは断念した。
気を取り直してとりあえず、EXITという看板をたどってエスカレーターを降りる。
その後、出口らしいものを発見したが、半分に仕切られており、片方は無人、片方は有人だった。
有人の方はコンピューターの前に三人並んで座っており、三人は軽く談笑している。
あれがスウェーデンの入国審査所なのか?!
他に出ていく人がいないので、どちらを通っていいかわからない。
誰かについていこうと思い、ベンチに腰掛け、、荷物が降ろされるのを待っている人達をにらみつける。せっかく機内持ち込みにしたのに意味ないじゃん。

荷物を受け取った人達はみんな無人の出口から出ていく。
私も勇気を出して無人の出口を選択して進む。後ろから声をかけられなかったので、どうやら合っているようだ。
通路を抜けると、タクシー乗り場が目に入った。
あああれ??入国審査は?これってそのドア開けると外なんじゃないの?
私外国人ですけど(誰がみても間違いない)、いいんですか????
私にサイトシーイングと言わせなくていいんですか?せっかくですから言わせてください。
ドキドキしながら、入国審査所がないかフラフラと歩み進めたところで、後ろから
「エクスキューズミー」と声をかけられる。
嗚呼、やっぱり!!勝手に出てきてはいけなかったのねーと勢いよく振り返ると、パシャッとフラッシュをたかれた。一瞬意味がわからなかった。

が、そこには見慣れた濃ゆい顔の薩摩っこがニヤニヤしながらカメラ片手にたたずんでいた。
「クァワァ〜ハッハ、ビビッた?ビビッた?」
と愉快そうに笑っている。
もちろんビビったわい。

その写真は自他共に認める最高の間抜け顔。振り向き様のその姿を例えるならば、見返りゴリラだ。
後にこの写真をネタにさんざんイヤってほど脅迫されることになる。
ちっきしょ〜そのうちあんたのパソコン、こっそりフォーマットした上でデータ復旧が出来なくなるぐらいゴミデータをしこたま書き込んでやるから覚悟しとけよ。
もしくは自然にHDDがクラッシュしてしまえばいいと密かに願っております。

じゃ行くぞとさっさーと歩いて行こうとするので、私入国審査通ってないんだけどと打ち明ける。
「フランクフルトで通ったでしょ?あれで終わりだよ」
どうやらシェンゲン条約とやらで、加盟国間の移動は入国審査必要ないらしい。知らなかった。常識なの?常識知らずでお恥ずかしい。
結局、ワタクシ自慢の日本語英語「サイトシーイング」はお披露目されることはなかった。

そんなこんなで、初めてのおつかいは幕を閉じた。
はあ〜さんざん心配したのが馬鹿みたいなほど簡単だったなあ。
しかし、無事に再会出来てほんとよかった。飛行機の中では待ち合わせにしくじり、途方にくれる自分の姿を何度か想像したものです。
緊張ですっかり冷たくなった手もようやくいつもの体温が戻ってきた。
さあ!これからは少々頼りないガイドが付いた観光旅行の始まりだ!
ストックホルム中心街へ向かう列車のホームへと二人で向かった。




終わり





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